電話機を買った。
僕は自宅に電話機を持たず、これまで携帯電話で済ませてきた。
設置はほんの数分で済む。
目の前に、物言わぬ機械が鎮座している。
うんともすんとも言わない。
電話は鳴らない。
誰もこの番号を知らないのだから、当然といえば当然なのだが。
ふと、携帯電話を初めて買ったときのことを思い出した。
誰にも番号を告げなければ、この携帯電話は、永遠に沈黙を通すのだろうか。
そんなことを思ったのだった。
携帯電話に自宅の電話番号を打ち込み、通話ボタンを押す。
数回の呼び出し音に続き、先ほど吹き込んだ留守番電話の音声が流れ始める。
※※は不在です。
よろしければ、メッセージをどうぞ。
流れてきた声は、どこかよそよそしく、歪に響いた。
僕は、留守番電話にメッセージを吹き込んだ。
携帯電話から自宅の番号に電話をかける。
今の電話機は、外出先からでも留守番電話に吹き込まれたメッセージを聞くことができるのだそうだ。
設定した番号を入力すると、メッセージが流れ出した。
それは、その声は、どこかよそよそしく、歪に響いた。
電話を切った僕は、再度、自宅の番号に電話をかける。
※※は不在です。
よろしければ、メッセージをどうぞ。
その声は、たぶん、どこかよそよそしく、歪に響いているはずだった。
僕は、おずおずと話し出した。
お電話、ありがとう。
そんなことを言ったように記憶している。