『生活考察』編集日記

辻本力。ライター・編集者。『生活考察』編集人。お仕事の依頼は chikarat79@gmail.com まで。

仙台一泊二日

仙台より帰宅。
今回は、青春18きっぷによる鈍行の旅だったのだが、意外と耐えられることがわかっただけでも、行ってよかった。
でもやはり常磐線、帰路は案の定、大雨の影響から遅れ、止まり、不安定な運行状況。
でも、すいぶん待たされたりしたわりには、予定より1時間遅れ程度で帰ってこられた。
不思議・・・と思ったが、要するに、乗換えで20分待ちとかのはずが5分に短縮されていたりしたからだろう。


初日、朝7時40分発で仙台へ。
いわき着、乗車時間2時間弱。
まだまだ余裕。
乗り換えて、次は原ノ町へ。
だいたい1時間ちょい。
さらに乗り換え、ようやく仙台。
賞味4時間半くらいか。
着くと、ちょうどお昼時である。


やはり仙台だし、ここはベタに牛タンだろうかと、とある人気店らしき牛タン屋へ。
牛タンは定食で食べるべしとのことなので、牛タン定食を注文。
朝飯をきちんと食べていないので、相当に空腹である。
期待とともに一口・・・ん?
そんなに旨くないぞ、おかしい。
なんというか、イカ焼きを想起する食感というか。
じつは私、厚い牛タンというものを食すのは初めて。
牛タンといえば、焼肉で出てくる、あの薄いものしか知らぬ。
食べ慣れていないだけで、こんなものなのだろうと思い込むことにする。


なにはともあれ腹は膨れた。
今回は一泊二日というスケジュールゆえ、遠方まで行くことは叶わない。
ということで、基本、街中を散策範囲に絞る。
まずは、せんだいメディアテークへ。
ガラス張りの7階建て、地下から上へ、13本のチューブが建物を貫通している。
チューブの中は、エレベーターだったり、階段だったりと、中に入ることが可能な構造である。
建物には、ギャラリー、スタジオ、映像・音響ライブラリー、図書館、カフェ、ミュージアムショップ(私の編集している雑誌も扱っていただいている。『エクス・ポ』や『Nu』の隣に置いてありました。感謝)などが入っている。
図書館などは、とても雰囲気がよいし、蔵書も豊富、仙台市民が羨ましい限り。
そして、なによりチューブである。
階段の方に入ると、なにやら音響が。
しかも、階段を降りていくと、突如「ガーン!」といったような音がし、びくりとさせられる。
見上げると、マイクやヴィデオカメラなどが据え付けられているのがわかる。
一番下まで降りてみて納得、これはチューブを有効活用する企画で、アーティストによる作品となっていたのだ。
チューブに入ってきた客の動きや音がプログラミングによって合成され、先ほど私がびっくりしたような音響効果となっているようだ。
これは面白い。
私は上から降りてきたのだが、もう一回上まで行ってみたい欲求に駆られる。
が、今回はそこまで時間の余裕がないので、諦める。
いやはや、よい建物であった。







その後は、ぶらりとしつつ駅に戻り、バスに。
行く先は「萬葉堂書店」(鈎取店)。
岡崎武志・著『気まぐれ古書店紀行』や野村宏平・著『ミステリーファンのための古書店ガイド』などで知り、仙台に行く機会があればぜひ訪れてみたいと思っていたお店。
バスに揺られること3、40分。
噂に違わぬ本の量に、感嘆。
とりあえず、入り口の100均棚をチェックし、店内へ。
50均の文庫棚をチェックしてから単行本の棚へ。
しかし、普通に見ていたらキリがないことに気付くも、すでに1時間が経過している。
お店の方の許可を得てから地下へ。
そして、1階に時間をかけ過ぎたことに気付いた。
黒、そして茶色っぽい本がやはり大量に鎮座している。
地下の文庫は出版社別になっているので、ちくまを皮切りに順に見ていく(1階同様、文庫の多くが定価の半額という値段設定)。
1階は天井が高いので、棚の上部は脚立を使わねばならないのだが、地下はそれほどではない。
入店から2時間を過ぎたところで切り上げる。
もうとっぷり日が暮れている。
大宅壮一・著『昭和怪物伝』(角川文庫)など、数冊購入。
居た時間からすれば購入点数は少なめ。
買ってもいいが、持ち帰ることを考え断念したものが多かった。
車で来ていたらこの限りではなかっただろう。
いずれにしても、これだけ膨大な量の本に囲まれるというのはやはり圧巻である。
来られてよかった、疲れたけど。


夜は、とにかく酒だと、こちらも前から行ってみたかった「一心」へ。
刺身、蛸煮、漬物などを注文し、ビール、そして日本酒へ。
太田和彦の居酒屋味酒覧〈第二版〉』(新潮社)で推薦されていた日本酒「伏見男山純米大吟醸中汲み」の上品な味、そして、お通しで出てきた海老の刺身の甘くねっとりとした味わいに感動する。
お安くは決してないが、旨いことは確か。

で、もう一件と移った先は、同じく太田本で紹介されていた文化横丁の「源氏」。
で、これがまた抜群の雰囲気、ちょっと怖いくらい。
なんといったらよいか、こんなシチュエーションで怪談本など読んだら堪らないのではないか。
完全な異空間といってよし(無音がまたその怖さを助長する)。
その雰囲気に酔いつつも、ときに発生する我がシャックリが久方ぶりにお目見えし、どうにも止まらなくなってしまったため、閉店を前にホテルへ。
残念、もう少し呑みたかったのだが。


翌日は・・・大雨である。
案の定というかなんというか。
あまり身動きが取れそうにないが、いずれにしても出なくてはならない。
まずは昼飯、ということで、本当に牛タンはあんなものなのか確認すべく、仙台の牛タンオリジネーターを謳う「旨味 太郎」へ。
席に着き定食を注文すると、あっという間に席に料理が運ばれてくる。
さて、いかがなものか・・・旨いじゃないか、イカ焼き風じゃない。
よかった、牛タンに良くないイメージを持ったまま帰ることにならなくて、と思うことしきり。
牛タンは柔らかく味わい深く、テールスープも滋味溢れる味、葱が大量に入っているのが嬉しい。
ふと壁を見ると、「辛子南蛮をご希望の方はお申し付けください」という貼り紙が。
お願いすると、青唐辛子の味噌漬けが運ばれてくる。
これを牛タンに付けて食べると、また新たに旨い。
なにより麦飯との相性が抜群である。
ぺろりと完食。
やはり旨い牛タンは旨いのだ。
美味しかったので、先の(イカ焼き風牛タン店の)店名は出さぬが、こちらは出させていただく。


帰りの電車は3時過ぎの予定。
あと2時間くらいある。
ということで、最後に「火星の庭」という古本カフェに寄ってシメとする。
仙台駅西口から10分ほど歩くと、その店はある。
こちらも古本本などで言及されていたので、存在だけは存じていた。
ビターな方のブレンドを注文し、さっそく店内の本を拝見する。
前日に膨大な本の山を見た後だから、小さな店内の、セレクトされた本群に心安らぐ。
トム・ウルフのエッセイ集『ワイルド・パーティへようこそ』(アメリカ・コラムニスト全集④、東京書籍)、安岡章太郎『良友・悪友』(新潮文庫)など数点購入。
珈琲を飲み終わったカップの底に、綺麗な鳥の絵が現れた。


帰り道は、冒頭に書いたように、不規則な運行状況にぐったりしたが、夜9時に無事到着。
慌しいながらも楽しかった。
食べて呑んで古本を見る。
旅行といっても、することはいつもと一緒なのであった。